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東京地方裁判所 昭和27年(ヨ)4029号 決定

申請人 植村正行 外八名

被申請人 小田原製紙株式会社

主文

申請人等の申請を却下する。

申請費用は申請人等の負担とする。

理由

第一、申請の趣旨

被申請人が昭和二十七年四月四日申請人等に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。

申請費用は被申請人の負担とする。

との決定を求める。

第二、当裁判所の判断の要旨

一、申請人等は何れも被申請会社(以下単に会社という)東京工場の従業員で組織された小田原製紙株式会社東京工場従業員組合(以下単に組合又は第一組合という)の組合員で、申請人植村は右組合の委員長、同目黒は副委員長、同添田は書記長、同鈴木は執行委員である。

会社は東京都中央区に本社を、神奈川県及び東京都に工場を有し、和洋紙の製造販売を主たる業務とする株式会社であつて、その従業員は本社約二十名、小田原工場約百名、東京工場約百二十名計約二百四十名である。

会社は昭和二十七年四月四日付の文書を以て植村に対しては就業規則第十六条、第六十一条に、目黒に対しては規則第十六条、第五十九条、第六十一条に、添田に対しては規則第五十九条、第六十一条に、鈴木に対しては規則第五十九条、第六十一条に各該当するものとして、規則第五十八条第四号により諭旨解雇とする旨の意思表示をした。

以上の事実は当事者間に争がない。

二、申請人等は会社の同人等に対する解雇は解雇事由がないので無効であると主張するのに対して、会社は申請人等には何れも就業規則所定の懲戒事由に該当する行為があつたので解雇したと主張するから、先ず会社の主張する解雇理由を検討しよう。

(一)  申請人植村正行の解雇理由

(1) 工員食堂泊り込みについて。

疏明によれば、申請人植村は

1、昭和二十七年一月七日会社東京工場工員食堂において、組合員鈴木金吾、保田一夫、沖田一男、添田一良、平野幸雄、平野幸次郎、目黒修、大野敏夫等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

2、同月八日前同所において、鈴木金吾、保田一夫、沖田一男、添田一良、平野幸雄、大野敏夫、豊島興儀、大竹千代子等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

3、同月九日前同所において、鈴木金吾、保田一夫、沖田一男、添田一良、大野敏夫、平野幸雄等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

4、同月十一日前同所において、鈴木金吾、保田一夫、沖田一男、目黒修、添田一良、小林義春、大野敏夫、平野幸雄等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

5、同月十三日前同所において、鈴木金吾、保田一夫、沖田一男、添田一良、久下忠治、大野敏夫、平野幸雄、増田保治、野口俊子、見米正子、大竹千代子、小林義春、上田千恵子等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

6、同月十四日前同所において、鈴木金吾、保田一夫、沖田一男、目黒修、添田一良、久下忠治、大野敏夫、平野幸雄、小山キイ、野口俊子、大竹千代子、小川サワ等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

7、同月十五日前同所において、鈴木金吾、保田一夫、菅谷浩二、添田一良、久下忠治、平野幸雄、小林義春、小山キイ等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

8、同月二十二日単独で前同所に泊り込み、

9、同年二月一日同所において、鈴木金吾、保田一夫等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

10、同月三日前同所において、鈴木金吾、保田一夫、沖田一男、添田一良等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

11、同月十四日前同所において、目黒修、添田一良、大野敏夫等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

12、同月十六日前同所において、大野敏夫と同所に泊り込み、

13、同月十七日前同所において、目黒修、大野敏夫等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

14、同月十八日前同所において、大野敏夫、石垣俊治、上田千恵子、野口俊子、小山キイ、見米正子、鈴木敏子等の組合員及び会社従業員でない望月勝、上田千恵子の姉及び妹等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

15、同月十九日前同所において、添田一良、平野幸雄、大野敏夫、平野幸次郎等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

16、同月二十日前同所において、添田一良、大野敏夫及び前記望月勝と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込んだことが認められる。

そして疏明によれば、昭和二十七年一月六日河口東京工場長が植村、目黒に対し、右工員食堂の泊り込みは会社から禁止されており、また施設管理上支障があるからこれをしないように注意を与え、なお同月十日にも植村、目黒、添田に対して同様注意したところ、組合側は後述するような事態収拾のため食堂使用の許可を求めたが、工場長は二、三日の猶予を与えるから明渡すよう申し入れ、更に同月十三日給料配分の団体交渉の席上、植村、鈴木、平野、目黒に対して工場長より直ちに食堂を明渡すよう申し入れたが、組合側からは返事がなかつたことが認められる。これに反し組合が右食堂を前記のように使用することについて会社の諒解を得ている趣旨の疏明は採用しない。

(2) 外来者杉山外一名を守衛の制止に反して工員食堂に連行し、休憩時間を約三十分すぎたとの点について。

疏明によれば、昭和二十七年二月二十三日午後零時二十五分頃、外来者杉山三男外一名が組合員に面接のため来訪したので、会社守衛飯田梅蔵が組合事務所又は守衛室に於て面接させようとしたところ、申請人植村が同所に来て、右守衛の制止に反して同人等を工員食堂に連行して面接し、右外来者は休憩時間を三十分位過ぎた午後一時二十分頃退出したこと及び会社は同月二十日従業員に対して、工員食堂の使用は食事中、休憩時間中若しくは工場長が必要と認めた場合に限り、使用を許可する旨の掲示をしたことが認められる。

(3) 外来者望月を守衛の制止に反して入門させたとの点について。

疏明によれば、昭和二十七年二月二十四日午後六時十分頃、外来者望月勝が植村に面会を求めたので、守衛飯田梅蔵は望月に対し、夜間の故に入門を拒絶したところ、同人は入門を強行しようとし、そこにたまたま組合員後藤勝雄が来合せ入場させるよう言い争つていると、申請人植村がその場に来て望月を工員食堂に導いたことが認められる。

(4) 外来者白水外一名を守衛の制止に反して入門させたとの点について。

疏明によれば、昭和二十七年三月十七日午後一時過ぎ頃、白水英一郎外一名が組合員に面会を求めてきたが、工場守衛江口政吉が就業時間であるからと断つたところ、同人は工員食堂に向つて大声で組合員を呼んだので、これを聞いた申請人植村は守衛所に来て、守衛の制止に反して強引に入門させ、工員食堂に案内したことが認められる。

(5) 組合青年大会に約旨に反して外来者箕輪、望月両名を出席させたとの点について。

疏明によれば、昭和二十七年三月二十二日申請人植村は会社東京工場次長井上由喜に対して、組合青年大会を開催するについて工員食堂の使用方の許可を求めたところ、同次長は工場長から予め組合の会合には、外部の者を出入させないように命じられていたので、外部の者を入れないことを条件として、右食堂の使用を許したが、同日午後五時三十分頃外来者望月勝、箕輪由造の両名が組合員に面会を求めたので、守衛江口松吉が入門を制止したにかかわらず右両名は強引に入門し、組合青年大会に出席し、午後六時五十分頃組合員と共に退門したこと及び組合は両名が右大会に出席することを予め承知しており、申請人植村も両名の出席を予期していたことが認められる。

(二)  申請人目黒修の解雇理由

(1) 工員食堂泊り込みについて。

疏明によれば、申請人目黒は

1、申請人植村等とともに、前記(一)の(1)の1、4、6、11、13のように、工場内において集会宿泊を行い、

2、昭和二十七年一月二日前記工員食堂において、保田一夫、沖田一男、添田一良、久下忠治、大竹千代子等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

3、同月十日前同所において、保田一夫、沖田一男、添田一良、鈴木金吾、大野敏夫、平野幸雄等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

4、同月十二日前同所において、保田一夫、沖田一男、添田一良、鈴木金吾、大野敏夫、平野幸雄、大竹千代子等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

5、同月十九日前同所において、保田一夫、添田一良、鈴木金吾、久下忠治、小林義春、平野幸雄等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

6、同月二十日前同所において、保田一夫、鈴木金吾、平野幸雄等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

7、同月二十三日前同所において、沖田一男、久下忠治等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

8、同月二十六日前同所において、沖田一男と同所に泊り込み、

9、同月三十一日前同所において、保田一夫、鈴木金吾等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

10、同年二月五日前同所において、保田一夫、鈴木金吾等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

11、同月六日前同所において、保田一夫、添田一良、鈴木金吾等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

12、同月七日前同所において、鈴木金吾、大野敏夫等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

13、同月十三日前同所において、添田一良、野口俊子等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

14、同月十五日前同所において、菅谷浩二、小林義春と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込んだことが認められる。

(2) 外来者望月勝を守衛の制止に反して入門させたとの点について。

疏明によれば、昭和二十七年二月二十一日午前十一時十八分頃、外来者望月勝が会社東京工場守衛所に至り、守衛飯田梅蔵に対し忘れ物があるからと入門を求め、同守衛と言い争いをしているところに、申請人目黒が来て守衛の制止に反し右望月を入門させたことが認められる。

(三)  申請人添田一良の解雇理由

(1) 工員食堂泊り込みについて。

疏明によれば、申請人添田は

1、申請人植村等とともに、(一)の(1)の1、2、3、4、5、6、7、10、11、15、16記載のように集会泊り込み

2、申請人目黒等とともに、(二)の(1)の2、3、4、5、11、13記載のように集会泊り込み、

3、昭和二十七年一月一日前記工員食堂に於て、保田一夫、久下忠治等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

4、同月十八日前同所において、保田一夫、鈴木金吾、小林義春、平野幸雄等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込み、

5、同月三十日単独で前同所に泊り込み、

6、同年二月九日単独で前同所に泊り込みをしたことが認められる。

(四)、申請人鈴木金吾の解雇理由。

(1) 工員食堂泊り込みについて。

疏明によれば申請人鈴木は

1、申請人植村等とともに、(一)の(1)の1、2、3、4、5、6、7、9、10記載のように集会泊り込み、

2、申請人目黒等とともに、(二)の(1)の3、4、5、6、9、10、11、12記載のように集会泊り込み、

3、申請人添田等とともに、(三)の(1)の4記載のように集会泊り込み、

4、昭和二十七年二月八日前記工員食堂において、保田一夫、大野敏夫等と集会し、そのまま同人等と同所に泊り込んだことが認められる。

そこで以上の認定した事実を会社就業規則に照して考えるに、申請人等の解雇理由(1)の行為は、右規則中諭旨解雇又は懲戒解雇の事由を定めた第六十一条第二号「正当な理由なく業務命令を守らない者」第三号「職場の規律を紊した者」第十五号「工場内に於て許可なく集会した者」の各号に該当し、申請人植村、目黒の(2)の行為は同規則第十六条第二項「外来者との面会は休憩時間の外之をなすことは出来ない」に違反し、同規則第六十一条第二、三号に該当し、申請人植村の(3)、(4)、(5)の各行為は同規則第六十一条第二、三号に該当するといわざるを得ない。

三、ところで通常の場合就業規則所定の解雇事由に該当する行為が解雇に価するというのは、就業規則違反が相当程度に重大なものであつて、解雇するについて社会的に妥当の価値判断がなされ得ることを要するものと解するのが相当である。そして本件就業規則の第五十八条に於て、懲戒は譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇の五種と定め、第六十二条には懲戒事由に該当する行為があつた場合でも行為者の情状においてやむを得ない特別の事由があるときは減罰し若しくは懲戒を免ずることがあると規定しているのは、右の趣旨を表明したものというべきである。

よつてこの見地において申請人等が前記(1)の所為に出た事情を考察するに、昭和二十六年十二月二十六日賃上げ等を目的とした争議の解決当夜会社東京工場附近でたまたま印藤巡査殺害事件が勃発し、翌二十七日組合員松本鶴吉、須田新一郎の二名が、更に昭和二十七年一月七日組合員上野長五郎、榎本義男、石垣俊治の三名が、続いて同年二月十三日組合員鈴木金吾、久下忠治、保田一夫、沖田一男、豊島興儀の五名が、同月十八日菅谷浩二、小島孝の二名がそれぞれ逮捕され、東京工場内外の捜索が行われたことは当事者間に争がなく、そして疏明によれば、右犯罪事件の容疑が組合員にかけられ、続々検挙される事態に立ち至り組合は極度の混乱に陥つたので、申請人等組合幹部はその善後措置を講ずることを余儀なくされたこと及び組合には会社東京工場裏門附近の工場敷地内に広さ約六坪の組合事務所を貸与されていたが、右事務所は工場正門から約二百米の地点にあり、右のような急の事態に際し外部との連絡に不便を感じたに反し、工員食堂は正門から約五十米で暖房の設備があり、夜勤の従業員(組合員)の休憩所とされていたので、組合員相互の間ばかりでなく、逮捕された組合員の家族及び外部の応援団体との連絡にも便利であるため、申請人等はこの工員食堂に集り、情報の交換をなし、引続いて宣伝等の文書を謄写印刷して夜を徹したことが認められるけれども先に申請人植村の項に於ても認定したように、河口工場長から数回に亘り組合の食堂使用を禁ずる旨の会社の命令が伝達されたにも拘らず、申請人等がこのように長期間に及んで右命令を無視して使用を続けたことは、会社経営秩序を維持するためになされた会社の命令に対する重大な違反であつて解雇に価する所為というべく、このような所為に出た事情が前記のように組合員に対し犯罪の嫌疑がかけられこれが対策を講ずるためであつても申請人等が就業規則違反の行為に出るについて酌量すべき特別の情状となすことはできないし、その他特別の情状を認めるべき疏明はない。

なお、申請人等の行為は、個々の行為を各別に考察の対象とするときは、それだけで諭旨解雇の事由となすことは酷に過ぎると考えられる程度の就業規則違反であるが、これ等の行為を反覆してなした事実から推せば企業に対する反価値的性格が強度に表明されたものというの外なく、結局会社が申請人等に対して以上の各行為を理由として諭旨解雇の処置に出たのは、その余の解雇理由につき判断するまでもなく相当であると断ぜざるを得ない。

四、申請人等は本件解雇の基準となつた会社東京工場の就業規則は一方的な手続によつて制定されたものであるから労働組合の正当な活動を妨害する範囲に於て無効であつて、例えば第六十一条第十五号に「工場内に於て許可なく集会し、若しくは文書、ビラの配布、貼布をなした者」は諭旨解雇又は懲戒解雇に処する旨規定してあるが、労働組合の正当な活動範囲に属する集会、文書の配布、ビラの貼布も此の規定に触れるとすれば、労働組合活動は窒息せざるを得ず、前記工員食堂の会合は組合員が検挙されたことについて、組合幹部が緊急に救援対策の為に会合したので正当な組合活動であると主張するけれども、右第六十一条第十五号は正当な組合活動までも禁ずる趣旨とは解せられず、工場内における無許可集会は組合活動としても正当なものとはいい難いから申請人等の右主張は採用できない。

五、又申請人等は、仮に工員食堂の使用が禁止されていたとしても、当時印藤巡査殺害事件の余波を受けて、第一組合員十二名が次々逮捕されたので、申請人等は組合幹部として右対策のため、余儀なく徹宵工員食堂を使用したのであつて、右工員食堂使用は緊急避難であるから違法性が阻却されると主張するけれども、申請人等が会社の命令に反して工員食堂に泊り込む以外に適当な措置をとり得る余地がなかつたとは認められないから、申請人等の右主張も採用できない。

六、更に申請人等は、本件解雇は申請人等の平素の正当な組合活動を理由とする不当労働行為であるから無効であると主張するので考えるに、前記のように申請人植村は組合の執行委員長、同目黒は副執行委員長、同添田は書記長、同鈴木は執行委員であり、何れも組合の指導的地位にあつて活躍していたこと及び会社は組合結成当時から組合に対して多少の敵意をいだいていたことが認められるけれども、本件解雇が申請人等の平素の組合活動の故にこれが決定的原因であることを認むべき疏明はなく、却つて前記第二、三項に述べた解雇理由が本件解雇の決定的原因と認めるのが相当であるから本件解雇は無効とはいえない。

七、以上のように、本件解雇の意思表示が無効であるとの申請人等の主張は何れも理由がないから、申請人等の本件申請は失当としてこれを却下することとし、申請費用は敗訴の当事者である申請人等の負担とすべきものであるので主文の通り決定する。

(裁判官 西川美数 綿引末男 高橋正憲)

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